八木節「五郎正宗」

ページ番号1001883  更新日 平成28年1月24日

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国は相州 鎌倉おもて

雪の下にと 住居をなさる

刀かじやの 行光こそは

玄関かまえの建物造り

さても立派な かじやであれば

弟子は日増にふえ行くばかり

今日はお盆の 十六日で

2 
盆の休みで 弟子達どもは

ひまを貰って 我家に行けば

後に残るは 五郎が一人

そこで行幸 五郎を呼んで

今日は幸い 皆んなが留守よ

是非に聞きたい そなたの身上

つつみかくさず 話しておくれ

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言えば五郎は 目にもつ涙

聞いて下さい 親方様よ

家のはじを 話すじゃないが

国は京都の三条通り

宿屋家業で 暮らしていたが

つもる災難 さて是非もない

火事のためにて 焼け出され

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わしと母親 乞食も同じ

九尺二間の裏店ずまい

母は縫針 洗濯仕事

わたしゃ近所のお使いなどで

細い煙りで 暮らしてきたが

ある日近所の使いの帰り

悪い子供が 大勢よって

5 
五郎さんには 父親がない

父のない子は ててなし子じゃと

言われましたよ のう母様よ

わしに父親 ある事なれば

どうか合わせ 下さるようと

泣いて頼めば 母親言うに

父は関東で 刀剣家じゃ

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さほど会いたきゃ 会わせてやろと

家の道具は 皆売り払い

わずかばかりの 路用をもって

なれぬ旅路は東をさして

下る道にて 箱根の山で

持ったお金はぞくにととられ

母は持病のさしこみが来て

7 
手に手をつくした そのかいもなく

遂にはかない あの世の旅路

母がいまわに この短刀を

父のかたみと私にくれた

母に別れてどうしょうぞいと

西も東も 分らぬ故に

死がい取りつき なげいていたら

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通りかかった 桶やの爺が

わしを助けて 下さいました

恩は決して 忘れはしない

父に逢いたい 桶屋をやめて

刀かじやに なりましたのじゃ

訳と言うのは こう言う訳よ

聞いて行先 不思議に思い

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五郎もつたる 短刀とりて

なかみあらため びっくりいたす

五郎引き寄せ 顔打ちながら

さては我子で あったか五郎

親はなくとも 子供は育つ

そちの尋ねる 父親こそは

わしじゃ藤六 行光なるぞ

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思いがけない 親子のなのり

様子立聞くまま母お秋

障子おしあけ とびこみきたり

やいのやいのと 胸なぐらとれば

これさ待たれよ これこれ女房

われの云う事 よく聞きゃしゃんせ

実はしかじか こう云うわけと

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一部始終の 話しをすれば

その日そのまま すんだるけれど

思い出して お秋のやつが

じゃまになるのは 五郎が一人

今にどうする 覚えて居れと

くやしくやしが 病気となって

日増し日増しに病気はつのる

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軽くなるのは 三度の食事

そこで五郎は心配いたし

生みの親より 育ての親と

子供ながらも 利口のもので

親の病気をなおさんために

夜の夜中に 人目を忍び

そっとぬけ出て 井戸にと行けば

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二十一日 願かけいたす

或る夜お秋が かわやに起きて

手水つかおと 雨戸を開けりゃ

いつの間にやら 降り積む雪に

風がもてくる 水あびる音

何んの音かと すかして見れば

水をあびるは 孝子の五郎

14 
寒さこらえて あの雪の上

上に座って 両手合わせ

京都伏見の お稲荷様よ

母の病気を治しておくれ

もしも病気が 治らぬなれば

五郎命を 差し上げまする

どうか治して 下さいませと

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井戸のつるべに しっかとすがり

またも汲み上げ ざぶんとあびる

様子見て居た まま母お秋

胸に一もつ その夜は休む

朝は早くも 起きたる五郎

母の居間にと あいさつ行けば

母のお秋は ふとんにもたれ

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いつに変った 猫なで声で

そこは寒いよ こっちへお出で

ハイと寄り来る 五郎のたぶさ

たぶさつかんで 手元によせて

夕べお前は 何していたの

雪の降るのに 水などあびて

にくいまま母 神にと祈り

17 
祈り殺すか ありゃおそろしや

鬼か天魔か 親不幸者め

枕振り上げ 打たんとすれば

五郎はその手にしっかりすがり

それは母さん 了見違い

どうかゆるして 下さいませと

ないてわびるも 耳にも入れず

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そばにあったる 煎薬土びん

五郎目がけて なげつけまする

額あたって 流れる血しお

わっとなき出す その声聞いて

弟子はその場に かけ込みきたり

五郎助けて 別間に行けば

これを見て居た 行光こそは

19 
おのれにっくい お秋の奴め

いまにどうする覚えておれと

思いましたが いやまてしばし

彼のためにて 日本一の

刀かじにと なったるなれば

心落ちつけ 胸なでおろし

そっと五郎を蔭にと呼んで

さぞやつらかろ がまんをしたよ

20 
家の後とりゃ お前であると

父のやさしい 言葉を聞いて

なおも続けて 願かけ通す

五郎一心 神にと通じ

お秋病気も 全快いたす

されどこの後 どうなりますか

後の機会に伺いまする

五郎正宗解説

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