八木節「継子三次」

ページ番号1001882  更新日 令和1年10月17日

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ころは安政 元年成るが

国は武蔵で 秩父が郡

真門村にと 百姓いたし

元は良し有る 大百姓で

親の代から 零落いたし

田地田畑 みな売りつくし

今じゃ小作の ひょうをとりて

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送る月日も 貧苦にせまる

今年また候 北アメリカの

異国騒動 品川沖は

新規つきたけ 台場の普請

それを聞いたる 百姓の喜八

土をかついで お金をためて

それを土産に もどらんものと

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支度ととのえ わが家を出でる

あとは喜八が 後添おたく

継子三次と 明暮れ共に

惨く育てりゃ 横しま邪険

辛くあたれど 三次郎こそは

親に孝行素直 な生まれ

産みの親より 育ての親と

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機嫌とりとり 後かたづけて

母の詰め置く 弁当もって

草紙かかえて 寺にと急ぐ

急ぐ間もなく 寺屋であれば

三次精出し 手習いしょうと

恥を掻く子や 絵を描くこども

いろは書くのは 三次が一人

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習い浅れど もう昼時よ

皆も弁当 三次も共に

弁当開いて 食べようとしたら

飯にたかった あまたの蝿が

ころりころりと 皆死に落ちる

それと見るより お師匠さんは

三次その飯 しばらく待ちな

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蝿が死ぬのは ただ事ならぬ

犬に食べさせ 試して見よと

犬はその飯 食うより早く

倒れ苦しみ 血へどを吐いて

すぐにその場に 命を捨てた

さては三次の 毒弁当は

たしかおたくの 仕業であろうと

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胸におさえて これ三次郎

今夜こちらへ 泊まってゆきな

言えば三次は ありがた涙

親の恥をば 話すじゃないが

家に残りし 妹達は

赤いべこ着て 毎日あそぶ

夜はおこたへ ねんねをしたり

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おんぶされたり だっこをしたり

お乳飲んだり 甘えるけれど

このや私は 打ちたたかれて

三度三度の 食事もみんな

母や妹が 食べたる残り

寒い寒中 雪降る日にも

やぶれひとえに 足袋さえはけず

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わしの身体は これこの様に

顔や手足は ひびあかぎれよ

ほんに辛いよ 継母さんは

なんで非道な 事するのかと

湯屋で評判 世間でうわさ

聞いて師匠は びっくり致し

それじゃなおさら 泊まっていきな

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言えば三次は 涙をはらい

今夜泊まると あの母さんに

打たれたたかれ 責め苦がつらい

帰りますよと 師匠に別れ

家に帰れば 継母おたく

今日の弁当 食べたか三次

はい、と三次の 言葉はにごる

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聞いて継母 角をばはやし 

弁当食べたは まっかな嘘だ

誠いわなきゃ こうしてやると

そばにあったる 薪振り上げて

力いっぱい 打ち伏せまする

どうか堪忍 して下しゃんせ

実は弁当 食べようとしたら

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それをみるより お師匠さんが

ほかの弁当 食べさせました

泣いて詫びるを 耳にも入れず

土間にふせたる あの大釜よ

煮立つ湯玉は 焦熱地獄

三次身体に 荒縄かけて

中へ無残と 押し込みまする

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かかるところへ 三次の身をば

案じましたる 手習い師匠

家の三次は どうした事と

言えばおたくは 何くわぬ顔

家の三次は どうした事か

帰り道草 なまけていると

どうかお師匠 お叱りませと

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言えば師匠は 不思議に思い

あちらこちらを 見回したるに

土間にふせたる あの大釜よ

これはいよいよ 怪しきものと

煙草つけんと いたせばおたく

お火はこちらへ 取ります程に

言えど師匠は 耳にもいれず

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おたく突きのけ あの大釜よ

蓋を取りのけ 仰天いたす

見るも無惨な この有様に

すぐに師匠は 検視を願う

前に来たれば おたくはうしろ

裏の田んぼに 追い詰められて

憎いおたくは 張りつけ柱

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七日七夜の あのさらしもの

さって一座の 皆様方よ

継子もったる その人々の

お気に召さぬか 知れないけれど

このや口説きは 何より手本

わが子継子の 隔てをせずに

育てたまえよ 皆さん方よ

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